継受(けいじゅ)の家|くまとりパッシブハウス(認定申請予定)

2025.06.24

継受の家│くまとりパッシブハウス(認定申請予定)
二級建築士であり大工でもある野澤万里が、自身の実家をフルリノベーション。築19年の木造住宅に「性能」と「思想」を注ぎ込み、パッシブハウス認定の取得を目指したプロジェクトです。
この家は、2000年以降の新耐震基準に準じて建てられていましたが、今回のリノベーションでは構造計算を実施し、「耐震等級3」および「長期優良住宅」認定も取得しています。また、解体することによって見えてきた劣化や漏水の痕跡は、新築住宅の施工における重要な学びともなりました。
今の日本の社会には、「住宅を受け継ぐ」という文化が忘れ去られているように感じます。だからこそ、「何代にもわたって住み継がれる家」=「次世代にも必要とされる家」という新たな住宅観をこの家で実現したいと考えました。
テーマは「AGING WELL」。劣化ではなく経年美化をめざし、構造・断熱・気密といった性能の追求はもちろん、木や左官などの本物の素材が年月とともに味わいを増すことを信じて選び抜いています。
住まいを継ぎ、手を入れながら育てる暮らし。この家を通して、「持続可能な住まいのあり方」を問い直すきっかけになればと思います。

リノベーション前の佇まい

窓に悩まされた住まい

こちらはリノベーション前の外観写真です。6寸勾配の大きな三角屋根と、シンプルな形状のファサード。東西南北すべての面に窓があり、一見すると明るく風通しの良い家に見えますが、実際の暮らしでは結露によるカビに悩まされていました。年末の大掃除ではカビ取りに苦労し、家具の配置も窓の多さに制限されがちでした。今回のフルリノベーションでは、断熱性・気密性の向上はもちろんのこと、家具の配置計画まで視野に入れた設計とし、暮らしやすさを再構築しています。

総板張りの外観

メンテナンス性と日射計画とデザインを両立した仕上げ

リノベーション前の外観の印象を残しつつ、日照シミュレーションを行いながら南面に袖壁と庇を追加。冬の日射取得と夏の日射遮蔽を両立するパッシブデザインを施しました。
さらに今回初の試みとして、外壁全面に杉板の総板張りを採用。木の外壁は雨仕舞いを適切に設計すれば高耐久であり、部分的な交換が可能な点でもメンテナンス性に優れます。仕上げには「ウッドロングエコ」を用い、新品時から落ち着いた風合いをもたせました。
住宅の寿命を大きく左右する外壁材こそ、素材・耐久性・持続可能性のバランスが重要。唯一人間が育てることができて、さらに大気のCO2を吸い込んで成長する「木」を使うことは、次世代に継がれる家であるために重要な選択だと思っています。

こだわりのリビング空間

お気に入りの家具と暮らす家

今回の内装デザインは、奥さんが担当しました。きっかけは、大好きなヴィンテージ家具集め。なかでも家族5人がそろって座れる丸テーブルは、何年もかけて探し続け、ようやく巡り合えた一品です。このテーブルを中心に、家具やキッチンの色味を統一し、空間全体のトーンを整えていきました。
床には、自然素材のリノリウムシートを採用しました。やわらかなマット感と足触りが心地よく、既製品にはない独特の風合いを感じられる仕上げです。キッチンの壁には、清潔感と可愛らしさを併せ持つ10cm角のタイルを使用し、すっきりと整った印象に。毎日の家事の時間も気持ちよく過ごせるよう、素材とデザインを丁寧に選び抜きました。

HOUSE DETAIL

住宅概要 フルリノベーション
土地面積 312.30㎡(94.47坪)※専用通路含む
建物面積 129.38㎡(39.13坪)
建築地 泉南郡熊取町
間取り 4LLDK
キッチンタイプ セミオーダータイプ
断熱性[UA値] 0.21W/(㎡・K)|パッシブハウス認定申請予定
気密性[C値] 0.1㎠/㎡