こんにちは。AGING WELLの大工×建築士の野澤万里です。先日新潟県の設計事務所SIAの石田さんと、ひとさじのことさんに企画していただき2泊3日で新潟の建築と林業について学ぶツアーに参加しました。各地の先輩工務店の方々ともご一緒でき、情報交換や建築についてじっくりお話しできる貴重な機会になりました。
日頃、山から現場へと当たり前に届く木材ですが、この当たり前がどれだけ大変なことなのかを知るとてもよいきっかけになったので、これから家づくりをされる皆様にも知っていただきたいと思います。
1回では書ききれないほど濃い内容のツアーでしたので、1日目/SIAの石田さんと新潟の家づくりと街並づくりについて学ぶ→2日目/林業と製材について学ぶ→3日目/新潟の建築について学ぶ。この3日間を2つに分けて書きたいと思います。
新潟へ
1日目午前。まずは林業建築家石田さんの設計事務所であるSIA inc.とカフェやアパレルが併設する複合施設へ。解体されるはずだった倉庫をリノベーションしてできたとてもおしゃれな場所で、倉庫という用途に縛られない自由な発想と地元の魚沼杉を使ったおしゃれな外観で地域の人が集まる素敵な場所になっていました。ここでは石田さんが取り組んでいる「野きろの杜」プロジェクトの話や、街並みを整えるといった地元工務店や設計者の在り方や考え方についてお話しいただきました。
石田さんの「自分たちだけでなく地域のために」という考え方と、地域だけでなく県までも動かすパワフルさと行動スピードの速さを目の当たりにし、自分も何か動かなくてはという気持ちになりました。
大きな木窓と庭の家
続いて午後からは、SIA所属の設計士さんの自邸を2棟見学させていただきました。1棟目は「大きな木窓と庭の家」へ。大きな片流れ屋根からつながった軒下空間と魚沼杉を使ったファサードラタン(目透かし貼り)で仕上げられた外観は迫力があります。杉板を使った外観は美しくおしゃれなだけでなく、50年以上もの耐久性があるとても長寿命な素材です。実際に築100年の古民家で貼られたものも数多く残っており、その耐久性が証明されています。家づくりの先人たちから学び今後のスタンダードになる持続可能な素材とも言えるでしょう。
家の名前にもなっている大きな木窓(写真を撮るのを忘れました)は、三枚の木製造作建具が連動して開き、全開にすると3間(約5.4m)の大開口となります。造作の木製窓でありながら断熱気密性のこともしっかり考えられた納まりでとても参考になりました。これから庭づくりも始まるようで大きな木窓から見る庭の景色がとても楽しみです。
ファサードラタンの外観
ロフトからリビングを見下ろす
塁間の家
2棟目は「塁間の家」。この名前は奥に長い敷地に合わせて建てられた家の長さが野球の「塁間」に似ているからと、現場に入っていた大工さんが付けた名前だそうです。そんなストーリーも伺いながら自分だったらどんな設計にするだろうと想像しながら現場に向かいました。
玄関ドアを開けたところ
中庭を眺める仕事と趣味の部屋
敷地の長さを生かした奥行きのある設計で玄関を開けるとから家の奥まで一直線に視線が抜けるようになっていました。中庭と裏庭の二つの庭があり、庭と庭の間に挟まれたリビングは両サイドから緑が眺められる、とても開放的な空間になっていました。ただ開放的にしているだけでなく、隣家の窓の位置をには開口を設けないなど視線を遮る工夫もられていてさすがだと感じました。コンクリートと木と緑のシンプルな色使いで家が整って見えたり、置いている家具や趣味のものへのこだわりがよく伝わってくる素敵な家でした。
普段設計をしていると、どうしても自分の頭の中のイメージでしか答えを出せず行き詰まることもあります。このように自分以外の設計者が設計した建物を見ることは、プランに対する柔軟性や提案力を養うために重要なことだと思うのでこれからどんどんやっていこうと思います。
野きろの杜へ
塁間の家から少し車を走らせ、野きろの杜へ。「野きろの杜」とは、新潟県新潟市に新しく生まれた街で、34区画の戸建て分譲・8戸のメゾネット型高性能賃貸住宅・ゲストハウス・ショッピングモール、そして街の真ん中には焚火を楽しめる広場が設けられています。株式会社新潟土地建物販売センター・株式会社石田伸一建築士事務所・株式会社スノーピークの3社が協働でコンセプトづくりを行い、新潟ののどかな田園風景にふさわしい街並みをつくるといったプロジェクトです。
外壁の色や植栽の種類、家の性能にまで縛りを設けることによって整った街並みづくりを実現させる建築協定があったり、家と家との間に緑道を設けてお隣との距離をとったり、そこに電柱を設置して目立たなくするなど細かなところにまで街並みづくりの工夫が見えました。除雪がしやすいように道路をまっすぐに作るなど大阪では考えないような雪国ならではの配慮もされていました。
ここでは石田さんが設計したモデルハウス「現代土間の家」を見学しました。安田瓦の三角屋根と魚沼杉の外壁がとても良く合っていてシンプルながらも存在感があります。瓦の重厚感と低く抑えた軒高が効いているのか、どっしりとした印象の佇まいです。
だれでも気軽に立ち寄れる集会場のような家というコンセプトで設計されたこの家の中心には、十字の土間があり、4方向へ通り抜けることができます。4方向それぞれの違った景色を楽しみながら、4つの居住空間を自由に行き来して暮らす新しい暮らし方を見せていただきました。
安田瓦と杉板の外観
通り土間の向こうの景色
通り土間の四隅につくられた居住空間
5地域HEAT20G2基準をクリアした高性能賃貸住宅
野きろの杜の入り口付近にはメゾネット型の賃貸住宅が8戸あり、既に何組かの家族が暮らしているようです。高性能住宅を持ち家に限らず賃貸でも選択できるようにという新しい取り組みで現在は全国に広まりつつありますが、実際に形になったものを見ると、近い将来日本の全ての人が家の温度で悩まなくてもよい時代になるように僕たちも微力ながら頑張っていこうと目標を再確認するきっかけになりました。
少しずつずらした配置で街並みの中心的存在に
coffeeとおいしいお菓子をいただきながらおしゃべり
サトウ工務店さんの現場見学
急遽、サトウ工務店さんのはからいで、野きろの杜内で建築中の現場を見せていただけることに。サトウ工務店さんは超高性能住宅の標準化、大工や職人不足の時代に対応するために現場での作業量を減らせるプレカット大型パネル工法にいち早く取り組み、現場の働き方を変える流れを全国に広めている工務店です。
そんな業界のトップランナーの現場を見られることは滅多にないので、皆がしゃがみこんで下から覗きこんだり、触ってみたりしながら収まりを確認していました。大工や設計者が集まれば家の見方が普通ではなく、後ろから見ると異様な光景でした。笑
1日目の終わりに
野きろの杜の見学を終え、夜はSIAの石田さん、サトウ工務店の佐藤さん、新潟県の家づくりを学ぶ会「住学」の庄司さんを交えて会食でした。それぞれに学んだことを共有したり、今後について話し合ったりと、とても有意義な時間を過ごしました。
こんな感じで盛りだくさんの1日目が終わりました。次回はいよいよ山へ入ります。木造住宅には欠かせない木について学んだことをお話します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。